
作品名:紬織着物 「島影」
草木の息吹を洗練された美意識で織る
まだ夜が明けきらない朝5時。工房を出て近くの山に登ると、葛が今を盛りとばかりに青々と生気を放っている。その葉を摘み、煮出し、糸を染め、日にさらす。やがて染め糸は機に組まれ、紬織に生まれ変わる。ーー松浦湾に浮かぶ島々や岬が緑色の諧調をつくり、その中を自在に群れ飛ぶ鴎を表現した「島影」。葛の葉の碧翠と藍の絣文様が見事に調和した、風雅な作品である。
草木染めのぬくもりと洗練された意匠が特徴の、染織作家・甲木恵都子さんが和光で初の個展を開催する。
東京に生まれ、幼少時からさまざまな着物に慣れ親しんできた甲木さんは、納得できる着物が欲しいという動機から自ら染織作家になることを決意。「紬縞織・絣織」の重要無形文化財保持者・宗廣力三氏に師事し、技法や創作姿勢を学んだ。現在は、父の故郷に近い、福岡県那珂川町にある静かな山裾の工房で制作を続けている。
「この土地に来て、光があるから色が生まれるということに初めて気づきました」。刻一刻と移り変わる光が植物にふりそそぎ、その力をいただいて色が宿り、草木染めとして人の手に渡る。生命の循環である。
緯(よこ)糸は手紡ぎの春真綿。経(たて)糸は玉繭の座繰り糸。経糸と緯糸のバランスを見ながら、ぼかし染、すくい織、ほぐし絣、花織などの多彩な技法を用いて、構図を丹念に織りこんでいく。
制作活動45年の節目でもある本展覧会では、これまでの制作活動の集大成ともいえる着物、着尺、帯あわせて60余点が出品される。ずらし絣文様の「早春賦」、緑の格子の「緑水」、浮織の八寸帯など、品格をそなえた江戸の粋を感じさせる作品が清爽な春を呼ぶ。
甲木恵都子(かつき・えつこ)
| 1934年 | 東京に生まれる | |
| 1965年 | 宗廣力三主宰の岐阜県郡上八幡町郡上工芸研究所入門 | |
| 1969年 | 日本伝統工芸展初入選 | |
| 1973年 | 日本工芸会正会員となる | |
| 1975年 | 日仏文化交流のためパリにて個展 | |
| 1979年 | 東京にて個展(以後各地にて個展多数開催) | |
| 1985年 | 第1回文化庁主催伝承者養成研修に参加 | |
| 1986年 | 福岡県筑紫郡那珂川町に甲木工房を設立 | |
| 1990年~ | 那珂川町教育委員会文化財主催「子どもたちのための体験学習」に携わる | |
| 現在 | 日本工芸会正会員、甲木工房主宰 |






















