伝統の先に拡がる漆芸の可能性
漆黒という言葉があるように、私たちが漆から連想するのは、森羅万象を呑み込む黒々とした存在。しかし、ここにあるのは春日(しゅんじつ)の揺らぎを湛え、無限の律動を刻み、にこ毛の一筋一筋にまで陽光の煌めきを凝縮させたものである。漆芸とはこれほどまでに多彩なものであったか。
和光では初の三人展を開催する漆芸家の小椋範彦氏、鳥毛 清氏、松本達弥氏。今回、展覧会を前にお話を伺うことができた。
蒔絵は、漆塗面に模様を描き、その上に金粉などを蒔いて装飾する。割貝(わりがい)という技法と卓抜した絵画的表現を用いて、草花や風景をモチーフに独自の世界を構築する小椋氏は、「感性や、筆の動きによる味わいを蒔絵の世界で出していきたいと考えています」と語る。
沈金は、漆塗の上にノミで図案を彫り、金箔や金粉を摺り込む。鳥毛氏は「命を愛でる」をテーマに動物を描く。「沈金の限られた材料と技法の中では、図案にこそ作者の個性が問われます」。ノミを筆に、漆をキャンバスに見立てたかのような自由な表現が光る。
彫漆は、漆を何層にも塗り重ね、模様を彫り出す。中国から伝わった技法だが、松本氏は「固定観念をなくし、彫漆における新たな技法に挑戦していきたい」と語る。歴史的名品の修復にも携わる氏は、直すことを通じて、作家としての方向性も見えてきたという。
漆芸の枠を超え、新しい地平に立つ三氏。「互いに刺激しあい、尊敬しあう3人が展覧会を開くことには、それぞれの表現方法の可能性へのさらなるチャレンジと、漆芸界の未来像を創造したいという思いがあります」と異口同音に口にする。壁面作品、箱物、茶道具など100余点の作品が初秋の並木ホールを美しく、重厚に彩る。